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2010/01/04 第5回 幸せはここにある ~十勝

新年あけましておめでとうございます。
昨年はぼくの拙い旅にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
今年も、また星を巡る旅にお付き合い下さい。

今回の目的地は「十勝」。北海道の広大な土地をもっとも具体的に感じるならば道東へ行くのが最適でしょう。なにせ十勝は広いだけではなく食べ物だって美味しい。北海道では何を食べても旨いでしょ、と云われますが、ここはまた別格。
まず穀物や酪農の産地として、北海道の食を支えていると云っても間違いではないですから。もっともぼくの旅に食べ物が出てくることはないですが...
それは、夜の撮影に集中していると当然おいしい食材を提供してくれるお店が閉まっているからなのですが。
今回は札幌より道央道から道東道を走り、夕張ICを降りたあとは国道274を走り、再び占冠から道東道に乗ると、音更ICまで一気に行くことができました。おかげで札幌市内からでも3時間ほどで到着。ずいぶん楽になったものです。

さて、十勝の旅では「絶対にここは外したくない」とあくまで個人的にイチオシなのが「旧士幌線/コンクリートアーチ橋群」です。

旧士幌線/コンクリートアーチ橋群画像をクリックすると拡大表示します。

帯広から十勝三股を結んでいた士幌線は1939年(昭和14年)に全線開通しましたが、1987年(昭和62年)に廃止になりました。音更川に沿って作られた鉄道のため、橋梁が多く必要になったものの、物資の乏しい時代に鉄をなるべく使わずに現地で採取できる砂利や玉石を利用することで、建設コストを抑えたために選択されたコンクリートアーチ橋が今でも訪れる人の目を楽しませてくれます。
この中には有名なタウシュベツ川橋梁がありますが、今回ぼくが撮影したのは「第三音更川橋梁」です。北海道遺産でもあると同時に国の登録有形文化財です。 当時、コンクリートアーチ橋としては10mを超えるものを製作できなかったことを克服し、32mにもおよぶ長さのコンクリートアーチを無鉄筋で製作にこぎつけたことは、それ以降の土木技術に大きく寄与したことからも、日本の橋梁として重要な遺産であると思います。
その美しさを夜に撮りたい、そう思って帯広からはるばる50km先の糠平までやってきました。

第三音更川橋梁画像をクリックすると拡大表示します。

実は一度、橋のふもとまで降りてみました。すでに笹薮の上に積もっている雪のため足をすくわれつつも。しかし、近づきすぎると木々が邪魔なのと、全体が写らないので、再び国道へ戻りました。
この日の夜の気温はマイナス18度、とのこと。いや、寒さに強いぼくも指先の感覚がなくなってきました。カメラのリモートケーブルは硬くなって曲がったままぶら下がっているし、ファインダーをのぞいて息をしているとカメラが真っ白に凍り付きます!これは、もう見事としか云えない(というか、困るんだけども)寒さ。それでも、美しい星空を見ているだけで寒さをちょっとだけ忘れます。
でも、遠くから「ガサっ」とか「得体の知れない鳴き声」が聞こえます。ああ、ここは携帯の電波も届かない、何かあったら終わりだな、と危険を感じつつ再び車に戻り、今度は南下。再び国道を戻り、音更ICに乗り、中札内村へ向かいます。今は中札内まで高速が開通していますし、芽室帯広ICからは無料区間です。

中札内村は帯広から40km南に位置する場所にあり、農業で有名なことは皆さんもよくご存知かと思います。(有名な花畑牧場もここにありますから)
ここにはぼくの好きな画家「相原求一郎」氏の美術館がありますが、これは帯広に本社を持つ製菓会社「六花亭」が営む中札内美術村のひとつです。独特の力強いタッチと大胆な構図が魅力の相原求一郎氏の絵を数年前、初めてここで鑑賞して以来数回訪れていますが、真冬に来るのは初めてのこと。
実はこの建物が素晴らしくて。昔は帯広市内にあった銭湯の「帯広湯」を移築したものです。大正5年に建てられた石造りの建物はぼくも現役時代に見ていただけに残してくれて嬉しかったです。

大正5年に建てられた石造りの建物画像をクリックすると拡大表示します。

丁度、月が上ってきましたが、すでに下弦に近い月のため、あんまり邪魔されることなく星もきれいに輝いていました。
残念ながら11月初旬に冬期休業になって4月下旬まで閉館していますが、もちろん建物だけ見ることは可能です。あたり一面真っ白な雪の中、趣きのある館をじっくり眺めるのもいいものです。周囲の木々に囲まれて静かな一角、星たちとの競演に写真撮影もちょっと一休みして空を見渡します。

次に向かったのは「旧国鉄広尾線幸福駅」です。中札内ICから北上し、一つ目の幸福ICで降り、右折するとすぐに見えてくるのが旧駅舎。あまりにも有名な1970年代半ばに一大ブームを巻き起こした「愛国から幸福へ」の切符を持っていた方は多いんじゃないでしょうか。

旧国鉄広尾線幸福駅画像をクリックすると拡大表示します。

先ほど訪れた旧士幌線同様、1987年に廃止になるまで多くの観光客が訪れていましたが、駅舎が保存された後は公園として整備され、気動車キハ22が二両、簡易除雪車であるモーターカー一両も保存されています。
また駅舎内には昔から名刺、使用済み定期券、はたまた速度違反などの取り締まりによる反則切符(笑)などが多数貼られていることも有名。なんでこんな事が流行ったのかは定かではありませんが、もう、これは歴史を物語るものとして唸るしかありませんね。(いや、その、実はぼくも十数年前に名刺を貼った記憶があるんだけれど、探すことは不可能でした)

幸福駅駅舎内画像をクリックすると拡大表示します。

壁や天井、窓枠にまで隙間なく貼られた無数の個人情報。旅人が画鋲をわざわざ持参したとは考えにくいのですが、誰かが刺したものに、さらに貼る、ということで何層にも重なる歴史の凄み、言葉を失うほどの凄さは一見の価値あり、です。でも、確かにここまで貼ってあると自分のなんかわかんないから、やってしまえ、という気持ちになりますよね。お寺などに貼る千社札みたいなものなのかもしれないけど。もちろん、今でもここの駅前には切符や、幸福を願う人々のためのグッズを販売している売店もあり、多くの人々が訪れます。

駅舎からホームに出ると、そこには今にも動き出しそうな気動車が。ホームそのものも当時のまま、木の床がたまらなく素敵だ。ここを歩くだけでも楽しいと思うのは、鉄分が濃い人だ。保存されているキハ22というディーゼルカーは北海道中を走り回ったローカル線で主に使用されていた気動車。しかもすこぶる保存状態がよく、おそらく道内でここまでキレイに保存されているキハ22は他にはないかも。

キハ22画像をクリックすると拡大表示します。

ぼくはしばし、ここでこいつを眺めていた。冷えた車体を触れば手が張り付いてしまいそうになるほどだ。「まだ走れそうだよなあ」...そんなことを思い、何枚もアングルを変えてシャッターを押す。星も絡められるけれど、正直な気持ち、それよりもこいつがどうしたらキレイに写るだろうか、そんなことを考えながらずっと周囲を歩いていました。
ぼくは星の専門家じゃないし、自然の景色と星の写真は、パーツダウンロードの壁紙になっているお二人の作品が抜群に素晴らしいので、ぼくは得意分野の建物や人工物を夜に撮りたいのだ。夜だからこそ、見えてくるものを。
でも、見れば見るほど「朝になったら動くんじゃないか」なんて思ってしまう。それほどに美しい。なんて考えていたら、空がそろそろ明るくなりそうな気配に。とうとう夜が明ける時間までぼくはここに佇んでいたのです。

~あの頃に想いをよせて~

星たちが眠りにつく頃、
きみは、そろそろ目を覚ます。
今朝はとてもしばれているから、
少し早めにエンジンに火を入れようか。

「からから」とほがらかに、
歌いはじめたきみ。
車内もうんと暖かくしておこう。

やがて駅には人がやってくる。
息を白くしながらきみを待っている。

みんなの笑顔に会うために、
きみはどんなに凍える日も、
雨の日も、風の日も元気にね。

学校や仕事へ向かう人たちの
幸せを願って、いつも走ってたね。

あれから何年経っただろう。

今もここを訪れるたくさんの人たちの、
笑顔に会うために。
みんなの幸せを願うために、

きみはここにいる。

キハ22画像をクリックすると拡大表示します。

2010年がみなさまにとって、素晴らしい一年になることを幸福駅で祈願してまいりました。
では、また次の旅でお会いしましょう。

◆十勝へのアクセス
札幌からは道東道で夕張IC~国道274号~占冠IC~音更帯広ICで向かうのが一番安心で早いです。
また、旧士幌線沿いにあるコンクリート橋脚見学ならば、音更帯広ICで降りたあと、国道241号を「士幌」方面へ北上します。上士幌町からは糠平方面へ国道273号線へ。北上すると元小屋ダムにさしかかる橋と並行して「第三音更川橋梁」が左側に見えます。国道沿いにはコンクリートアーチ橋の案内看板が整備されており、有名な橋梁付近には車を停めるスペースがあります。
中札内村へは道東道芽室帯広ICから中札内IC(終点)まで行きます。この区間は通行料が無料です。(正しくは帯広・広尾自動車道です)また、帯広市内からは国道236号線で向かいつつ、途中の景色をじっくり楽しむのもいいでしょう。
帯広周辺は広大な林、畑、酪農地域ならではの景色が広がり、真冬でも楽しめます。また温泉も多く、十勝エリアに点在する「モール温泉」の泉質は非常に肌にもよく、入っていて気持ちがいいです。宿泊はぜひ、温泉のある宿をおすすめします。

◆おすすめ撮影ポイント
●国道241、273号線沿いの士幌~上士幌エリアは農家が点在し、どこか懐かしい情景が多く、昼間でも見飽きない景色が続きます。夜間なら星も美しく、月明かりがあれば林が照らされとても雰囲気がいいです。長時間露出でぜひ星を入れながら撮影して欲しいエリアです。
●旧士幌線のコンクリートアーチ橋は国道273号線沿いに点在し、至る所に案内看板が丁寧に配置されているので見落とすことはないと思います。有名なタウシュベツ川橋梁は今の時期、水没しており見られないかもしれません。今回撮影した「第三音更川橋梁」は国道と並行している橋の上から撮影が可能です。コンクリートアーチ橋付近へ降りるのは危険が伴いますので、安全な場所から見学、撮影しましょう。(橋は老朽化などで危険です。歩いて渡るなどは絶対にしないで下さい)
●帯広市内の町は、昭和の色を残す建物が多く歩いて撮影するのも楽しいです。
●中札内美術村は冬期間建造物内部は閉館されていますが、外部の見学は可能です。ただし、除雪を行っていない部分はかなり雪が深いため、長靴が必須です。(それでも、足りない場所もありますのでご注意を)
●幸福駅や愛国駅は国道236号線より一本東側の道路沿いにあり非常にわかりやすいと思います。駅舎として雰囲気があるのは幸福駅ですが、愛国駅も昭和レトロな雰囲気が漂い、どこか懐かしさをおぼえます。日中は愛国駅も開放されており、駅舎内には当時を偲ぶグッズが展示されています。
●時間があれば、幸福駅から国道236号線を南下し旧忠類村(現幕別町)にあった旧忠類駅へ立ち寄りたいところです。木造駅舎としては非常に程度よく保存されています。旧国鉄のローカル駅のスタンダードなイメージで、ホームと共に保存されています。
●2010年1月23日から2月28日(毎晩19:00~21:00)まで、十勝川温泉にある十勝が丘ハナック広場にて「彩凛華(さいりんか)」と呼ばれる光の森をイメージした夜のイベントが開催されます。広場を埋め尽くしたイルミネーションが圧巻です。
詳しくはhttp://www.tokachigawa.net/event/sairinka.html
●2010年1月29日~31日まで帯広市緑ヶ丘公園(緑ヶ丘2丁目一帯)にて「おびひろ氷祭り」が開催されます。氷像や花火、グルメも楽しめますので、こちらも併せて楽しみたいですね。

◆その他
●道東エリアは積雪が少なくても夜間は道路が凍結するので、運転はじゅうぶん気をつけて下さい。また、道道などの一部エリアは夜間の除雪を行っていないので途中で行き止まりになることが多いです。
風がかなり強い夜間は吹雪で道路が消える現象が多いのが、このエリアの注意点です。また、信号機のない交差点では一時停止して左右の確認を行いましょう。十勝型事故と云われる交差点での事故が多いのも、農道などまっすぐな道が多く、交差点も林などで見通しがよくない場所で起こります。停止標識がなく優先であっても、左右確認を絶対に行って下さい。
●農道では路肩の積雪でタイヤを落として動けなくなることがあります。農業用水のためにある深い溝は積雪で見えなくなっている場所も多いのでご注意を。道の端に車を停めて撮影する場合、できれば安全な場所に停めましょう。(携帯の電波が届かないエリアでは救助要請にも苦労します)
●コンビニは国道沿いにそこそこ多くあるので、夜間でも食料調達などに不便はありません。(ただし、帯広より北のエリアへ行く場合、上士幌町を過ぎるとなくなるので注意)


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プロフィール

写真家 上原稔 / UEHARA MINORU
写真家
上原 稔
UEHARA MINORU

1960年秋田県生まれで札幌育ち。東京、札幌で写真スタジオ勤務後、富士写真フイルム株式会社(現・富士フイルム株式会社)札幌営業所勤務。

会社員生活を20年経て2年前に独立し、現在はNHK文化センター北海道総支社にて写真教室の講師などを行っています。得意な写真分野は「町」「夜」「旅」など。

photo:mode
http://ariaribox.exblog.jp/


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